湯浅ちひろ

芸術は時に私に喜びを与えてくれました。しかし、芸術だけが喜びを与えてくれたわけではありません。そもそも、芸術は都市にしか存在しないものです。本来、自然とともに生きていくべき動物である人間達が都市に住むことで規律を守り、ストレスを抱え、秩序を乱すものを排除する・・・それを芸術に頼り、芸術で美しさを補い、さらなる刺激を求めているだけなのです。それにもかかわらず、多くのアーティストたちは自分が神になっているような高揚感を覚え、芸術を絶対とし、宗教よりも強く崇拝するようになるのです。 三年ほど前、エジプトのオアシスで砂漠生活をしていたことがありますが、遊牧民の彼らはアート、芸術、そんな言葉を必要としていませんでした。砂漠に沈む太陽を見て、祈り、毎日見ているはずの光景に今日も美しいと言っていました。自然のものが一番美しいとは言えませんし、砂漠に一生は住みたいとも思いませんが、芸術という単語が存在しない異世界がそこにはありました。 芸術は脳の投影を作品にする行為です。私たちは東京と言う大都市に生きているわけですが、完全なまでに不自然な暮らしの中で芸術がカオスに混沌になっているのは理に適っているわけです。